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ようやく事態打開の可能性が見えてきた。
東京電力福島第1原子力発電所の敷地内タンク群にたまり続けている処理水の海洋放出に関する件である。
4月7日の菅義偉首相と全国漁業協同組合連合会の岸宏会長との会談を受けて政府は13日にも関係閣僚会議を開き、トリチウム(三重水素)を含む処理水の海への放出を決断する見通しだ。
水素原子の一種であるトリチウムは放射性の元素だが、発する放射線が生物に与える影響は無視されるほど小さい。
トリチウムは原発の通常運転でも発生し、世界の原子力施設では海洋放出などで処理している。
だが、第1原発の場合は事故に伴う放射能汚染水を浄化処理したトリチウム水なので、危険性はなくても風評被害を招くとして漁業者の間に反対の声が強い。
そのため、東電は第1原発の敷地内に千基を超えるタンクを建造してトリチウムを含む処理水をためてきたが、来年秋には限界に達する見通しだ。それに加えて廃炉作業の前進には専用地を確保しなければならず、そのためにはタンクの撤去が必要だ。
この2つの事情でトリチウム水の海洋放出が不可避となっている。菅氏は首相就任後の昨年10月と12月にも決定を検討したが、いずれも見送られた経緯がある。3度目となる今回は、ぜひとも放出への道筋をつけてもらいたい。
福島県の漁業は4月に、従来の試験操業から本格操業を目指す移行操業に進んだところである。この段階での海洋放出決定は漁業者にとって出ばなをくじかれる思いだろうが、反対を続けている間にも処理水は増えるばかりだ。
風評被害は漁業者と政府の共通の敵である。根拠のない噂に負けてはならない。国際原子力機関(IAEA)も国内外の風評防止に協力してくれるのは心強い。
関係閣僚会議で海洋放出が決まった場合でもトリチウムを海水で薄める希釈設備などの諸準備に1年以上は要するだろう。
その間を利用して政府と漁業関係者の間で風評被害防止の綿密な対策を練ってもらいたい。
約135万トンにも達する処理水の放出にかける期間の検討も重要だ。10年単位の長期にわたれば、その間、風評被害が持続することになりかねない。短期間での放出完了も選択肢に加えるべきだ。
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2021年4月11日付産経新聞【主張】を転載しています